連載|モノづくりビト-18|蟹澤宏剛[芝浦工業大学准教授]|撮影=牛尾幹太
打放しコンクリート仕上げ ニチエー吉田[静岡県・浜松市] 打放しコンクリートを美しく仕上げることがいかに難しいかは、ここで詳述するまでもあるまい。そのノウハウはさまざまあれど、具現化は有能な技能者と管理者次第であるといっても過言でない。昨今、それが簡単にかなうような状況にはないにもかかわらず、端正な打放しの建物が多くなったのはなぜか。その背景には、もはや補修の域を超えるまでに進歩した仕上げ技術である。 従来、ジャンカやコールドジョイント、色むらなどの補修は左官や塗装の範疇と考えられていた。しかし、どんなに熟練した職人技をもってしても、その痕跡を消し去ることは極めて難しい。また、コンクリート表面には耐水、耐候性向上のために防水や撥水処理を施すのが一般であるが、耐久性の問題や塗布による色むら、いわゆる濡れ色などの意匠上の問題が存在し、どれも一長一短であった。それを、ある意味逆転の発想で解決したのが「吉田工法」である。 吉田工法は、新築および経年劣化の補修・再生に対応するが、いずれも素地の不具合を修生した後に、その場にふさわしい型枠のテクスチャを復元し、耐久性向上のための表面処理を施すトータルな仕上げシステムである。 その生みの親、吉田晃さんがニチエー吉田を創業するのは1959年。当時は、前川國男、坂倉準三、丹下健三らに代表される打放しの全盛期。多くの現場でその補修に頭を悩ませていることを知り、新分野の開拓を決意するも、それは無謀な挑戦であった。師範学校卒業の吉田さんは建築や材料の専門教育を受けていない。実際、最初は失敗の連続で、さまざまな問題の克服には20年余りを費やすことになるのであるが、これほどまでのエネルギーの源泉は何だったのか。 浜松といえば、ホンダやヤマハ、スズキなどの発祥の地。そこには、なんでも挑戦してみなければ始まらないという「やらまいか精神」が宿っている。また、吉田さんの発明はモルタルへの樹脂の混合、撥水剤と塗膜の重ね塗りなど、当時の常識ではあり得ない試行錯誤の末に生まれたものであるが、そのヒントの多くが自動車やピアノの製造技術にあった。 最近、類似の工法も多くなったが、安易な外注化やフランチャイズ化に走らず、大卒の社員を育成して現場に送り込むという品質管理体制に容易にはかなうまい。その実体験は新たな発明の種となる。専門工事業のひとつの規範がここにある。 1:吉田工法による仕上げの例。多くの有名建築で採用されている。 2:本実をはじめ、さまざまな型枠のテクスチャを写す道具やピンホール、コーン跡をつくる器具など実にユニーク。 3:この小さな研究コーナーから新たな発明が生まれている。 4:打放しの仕上げはいくつもの工程からなる。
by pikayoshi72
| 2007-06-04 16:47
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