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「打放しコンクリートと共に」 その(47)

こんにちはpikayoshi72です。

 今回は「塗装と塗料」1992年1月号、「打放しコンクリートから見た仕上材の経緯と超耐候性アクリルシリコンまで」のうち,第2回「5.打放し防水材の変遷」から「7.濡れ色・ムラの追放と失敗」をご紹介します。

5.打放し防水材の変遷
1952年,本格的にスタートした打放し建築は,その殆どが杉板の本実型枠で,鮮明に転写された打放し表面の木目模様は芸術品を思わせる仕上げであった。(写真-7)
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それに歩調を合わせるようにしてシリコン撥水材が登場した。これはシリコン樹脂を有機溶剤に溶解したもので,当時の防水材としては画期的なものとして受け入れられ,打放しにはシリコン撥水材が指定され,当然のようにして塗布されていた。
打放しコンクリートに塗布されたシリコン撥水材(図-1)は,
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浸透して打放し表面の表情は何ら変えることなく水を弾き,水滴となって流下するさまは,先進技術の枠として驚きをもって迎えられたものである。(写真-8)
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しかしシリコン撥水材はその大きな期待をよそに数年を待たずして撥水効果が薄れ,早いものでは1年で消滅したものが出るなど,信頼性は効果と並行して低下していった。その後各種の打放し向けの防水材が登場したが,どれも記憶に留める程のものはなく,相変わらずシリコン撥水材に頼った施工で推移した。

6.アクリルシリコン樹脂系防水材の登場
1965年,モータリゼーションの勃興と共に大気汚染が表面化し,建物の汚染と劣化が次第に進み,表層面の保護に対する関心が高まってきた。むき出しの打放し建築に黒く付着した汚損物と,ひび割れに起因した漏水とエフロレッセンスの流出は,打放し建築の将来を危慎するものとして暗示された。
このようなことを背景として,1970年代に入りシリコン撥水材に代わる耐久性と高い防水材をもった造膜型防水材としてアクリル樹脂クリヤーが花々しく登場,打放し素材を生かしたカラー化をプラスして,打放し建築に新しい息吹を与えるかのようであった。
シリコン樹脂材に期待を裏切られた関係者の多くは,この溶剤型アクリル樹脂クリヤー(以下アクリルクリヤーと称す)に多くの希望を抱いたが,打放しに塗布したアクリルクリヤーを目の当たりにして再び苦汁を飲むことになった。打放しの生命である素材の表情が著しく損なわれる結果となった。防水性の向上は期待通りのものであったが,アクリルクリヤーを塗布することにより濡れ色となり,しかも打放し表面の浸透のバラツキからムラが生じ,欠損箇所の補修モルタルは,その傷口を改めて誇張するかのような仕上げとなった。(写真-9)
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アクリルクリヤーに着色剤を添加して,若干でも濡れ色とムラを隠蔽する手法を試みたが,効果はあがらず意匠性を損なうことのないシリコン撥水材は,耐久性に乏しく,耐久性のあるアクリルクリヤーは意匠性を喪失するという結果となった。

7.濡れ色・ムラの追放と失敗
 このままでは打放し建築は何れ姿を消していく運命をたどることになりかねず,打放し現場に携わるものとして,意匠性を損なうことなくしかも耐久性に富んだ防水材の開発が必要不可欠であること,しかも新築時の打放しだけでなく,経年劣化した打放しにも必要であることには変わりがない。
 当社はこのような実情をふまえ自社開発の必要性を感じ,打放しのための防水材の開発を目指した。
 1970年代に入り従来の溶剤型アクリルクリヤーから水性エマルション(以下水性アクリルクリヤーと称す)の採用で,打放しの素材のイメージを損なうことのない防水材に一歩近づいたものである。
当水性アクリルクリヤーを打放し現場で施工後,降雨時に防水性能を評価のため訪れたところ,打放し全面に点在しているピンホールの廻りは雨水の浸透を示す黒色の輪が歴然とし,ピンホールが集中して存在する部分の1つの塊となって浸透を物語っていた。(写真-10)
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 今までの濡れ色,ムラは解決されていたが,ピンホールへの雨水の浸透には無抵抗であった。造膜型の防水材に共通した欠点であり,重ね塗りして解決出来そうであるが無惨な結果になった。塗装感覚で考えればピンホールをパテで埋めて防水材をかければ良いが,打放しはピンホールも意匠性を支える大切な役目を担っていることを理解しなくてはならない。ピンホールの上に重ね塗りして完全な塗膜を施したとしても,ピンホール内部に存在する空気が,日射による温度上昇によって膨張し,その圧力で塗膜が破れ,雨水が浸透していく。
 この繰り返し作用と,コンクリート毛細管への浸透で雨水は次第に拡大して,塗膜型防水材の性能と施工技術への信頼性が疑われる結果となった。
 このような経緯をたどり,新しい防水材として浸透性吸水防止材が花々しく登場してきた。しかし1950年代の撥水材の苦い経験をもつ筆者は,この非造膜型防水材も短期間で防水性能を喪失した過去の撥水材を想起させるものであった。しかしコンクリートに浸透して撥水性を示す反応による防水効果がある新開発商品であることを期待して採用してみた。
代表的なその1つの浸透性吸水防止材(シラン系オリゴマーを主成分)を現場にて仕様書通りの塗布をして,約3ヶ月後降雨の激しい中,撥水防水状況の調査をした。打放し建築で3階建であるこの打放しの表面は,最上階の外壁は撥水性を示す水滴の断続的な流下は認められず,浸透を示す濡れ色に変化していた。(写真-11)
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 しかし1・2階の外壁は,上層階からの流下した雨水が水玉となって撥水していた。激しい降雨や強い風雨に接する部位の打放し表面は,雨水が浸透して明らかに吸水している状態であった。

 次回は第3回(最終回)「9.浸透性吸水防止材と水性アクリルの組合わせ」から最終項「12.水性アクリルシリコンエマルションの実用化」までをご紹介します。

 さて、この年1992年の重大ニュース(国内編)、3月14日, 東海道新幹線に最高時速時速270kmで飛ばし東京-大阪を2時間30分で結ぶ「のぞみ号」が登場しました。デビュー当初は,名古屋に停車しない列車があり、「名古屋飛ばし」として地元に強い衝撃を与えたとか!

それでは次回をお楽しみに!

打放しコンクリートについてもう少し詳しく知りたい方はこちらへどうぞ!
by pikayoshi72 | 2008-12-01 07:25 | ブログ


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