「打放しコンクリートと共に」 その44

今回は「建築保全」1991年7月号、special edition / 外装の補修・改修例「補修・改修の計画から保全まで」2回に分け紹介します。本日は前編「1.建物経緯」をご紹介します。
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1.建物経緯
 静岡県庁東館は昭和45年5月完成、中部建築賞を受賞した著名な建築物である。(株)日建設計による打放しコンクリート高層建築の地下1階、地上18階で徳川家康の築城になる駿府公園に位置し、静岡県政のシンボル的存在として親しまれてきた。しかし築後19年を経過、打放しコンクリート外壁は汚染し経年劣化による表層塗膜の剥離・ひび割れや露出鉄筋に伴う被りコンクリートの剥落等、構造体への影響が懸念される事態となったため改修を実施したものである。なお打放しコンクリート以外の外装工事については割愛した。
1)建物概要
構造:鉄筋コンクリート造地下1階地上18階建外壁・柱型打放しコンクリート
面積:12、100㎡、高さ:64.55m、建築面積:3、684.4㎡、述べ面積:27、277.33㎡
2)劣化調査
 各種劣化症状および現象を調査した。調査結果は次の通りである。
調査日:昭和63年8月26日~30日
a)ひび割れ
 各面各階の梁中央部軸方向に対して垂直なひび割れが不規則に存在し、最上階の建物間に設けられている幕板部分、パラペット壁面に斜めのひび割れを確認した(写真1)。
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 また、1階パラペットで確認したひび割れは貫通ひび割れで、漏水痕跡を示すエフロレッセンスが確認された。
b)露出鉄筋
 梁側面の露出鉄筋は水平直線状で、幕板部分で確認した露出鉄筋は錆汁が流出表層を汚染していた。
c)コールドジョイント
 梁を斜めに走るコールドジョイントは、コンクリート層間の肌別れを識別する色違いがあり、発生位置は梁側面に多く確認された。
d)モルタル補修跡
 サッシ下腰壁コーナー部の欠け割れ箇所にモルタル補修部を確認したが、最近応急処置として補修されたものであり、性能低下は認められないが意匠性を阻害している。妻壁の幕板部分の補修材は浮いており、表層面には網目状のひび割れが確認された。
e)木コン跡
 木コン跡の充填モルタルの多くは乾燥収縮による間隙が生じ一部は脱落していた。(写真2)。
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f)コンクリート表面劣化
 高層部と塗膜の劣化した部位に表面はセメントの溶出による砂アバタ状を呈していた。(写真3)。
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g)中性化深さ測定
あらかじめ各面の測定箇所をマーキングし,躯体コンクリートを深さ40mmまではつり,清掃後フェノールフタレインアルコール溶液(1%濃度)を噴霧し表面から着色境界線までの深さをスケールで測定し中性化深さとした。
建物経過年数と中性化深さの関係を以下の式により検討した。
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(JASS 5)
X = 中性化深さ (cm), t = 期間 (年),w = 水:セメント比 (%)
ただし,水:セメント比は w 0.6とする。
この建物の平均中性化深さは以下のとおりである。 (水:セメント比は0.6とする)
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この式から算出した値と比較して,建物の中性化深さは各面において下廻っていた。
h)躯体コンクリートの圧縮強度
非破壊試験器シュミットハンマーN型を用いてあらかじめ測定箇所を設定し測定した(表1,写真4)
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i)鉄筋コンクリートのかぶり厚さの測定
非破壊鉄筋検査機PQ-120型を使用して,鉄筋コンクリートのかぶり厚さの測定をした。測定方法は次のとおりである(写真5)。
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パコメーターの読取値により,かぶり厚さの近似値推定曲線図を用いコンクリートのかぶり厚さを推定する。
ただし,この方法は鉄筋の直径が未知の場合だけ適用する。
〔例1〕測定したかぶりの読取値6cmを示したと仮定する。
鉄筋の直径が8mmと34mmとの中間にあるとの仮定に基づき,曲線は公称値から+1.0cm
-1.48cmの偏差を与えられる。この値はかぶり厚さの許容偏差と考え,よってかぶり厚さは
+1.0-1.45cmに等しい(図1)
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j)付着力試験
既存外壁の防水トップコートはアクリルクリアである。部位による劣化のバラツキが著しく全面高圧洗浄後
強力剥離剤による剥離テストをしたが,期待した効果が得られなかったため下記の方法による表面処理を実施した。
〈付着力試験方法〉
建物に採用する打放しコンクリート若返りシステム(吉田工法)の付着力試験を以下の要領で実施した。付着力試験箇所を設定し3種類の表面処理を施し建研式引張試験アタッチメント40×40をエポキシ系接着剤を用い固定した。接着剤固化確認後,アタッチメント4辺をコンクリートカッターで切断,建研式引張試験器により行った。(図2,写真6)。
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〈付着力試験結果(表2)〉
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西面において,付着力数値が100kgf/16cm2以下の部位(*)について調査したところ,アタッチメントと母体との接着不良によるものと確認されたため,改めて各部位につき3箇所の追加試験を実施した。
その結果を表3に示す。
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〈追加試験結果〉
試験体を2週間放置養生後に1回目の引張試験を実施した。平均値は8.65kgf/cm2であった同試験体の一部アタッチメントの接着不良による剥離が生じたため,再試験を2週間後に実施した。
試験の平均値は,9.8kgf/cm2で約13%強度増加がみられた。
これは1回目の試験が2週で2回目は4週近くという養生期間が材質の性能向上に影響したものと推定された。
なお,若返りシステムにおいては材令2週では付着強さ5.0kgf/ cm2(標準状態)の値と設定しており,今回の試験結果は良好であったと判定した。

3)劣化原因の推定
個々の劣化症状の発生原因を推定し以下に記す。
a)ひび割れ
梁中央部軸方向に発生したひび割れは,両側に位置した柱により拘束されコンクリートの乾燥収縮および乾湿・温令による伸縮作用にによって発生したと推定される。また,表層面に確認した網目状のひび割れは,コンクリートの乾燥収縮または長時間のコンクリート練り混ぜ等に起因したものと推定される。(写真2)
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b)露出鉄筋
露出鉄筋はコンクリートかぶり厚さの不足とそのほかひび割れ・豆板・コールドジョイント等の補修モルタルの劣化損傷に起因して雨水や炭酸ガスとそのほか酸性物質の浸透で鉄筋が錆化膨張しかぶりコンクリートを押し出し剥落させたものと推定される。(写真7)
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c)コールドジョイント
上層コンクリートと下層コンクリート間において肌別れを生じている。これは下層コンクリートが凝結硬化をし始めた時に上層コンクリートを打設したため生じたものと推定される。
d)モルタル補修跡
サッシ下端に確認したモルタル補修跡は,最近補修されたものと思われ,補修材の劣化は目視する限り良好と思われるが,妻壁幕板部分の補修材の接着力は低下し,表層部に確認した網目状ひび割れは,モルタルの乾燥収縮により発生したものと推定される。
e)木コン跡
木コンモルタルの欠落は充填されたモルタルの収縮に起因して雨水等が浸透し,内在するセパレータが腐食膨張し,モルタルを押し出し脱落させたものと推定される。(写真2)
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f)コンクリート表面劣化
表層塗膜の性能喪失と,コンクリート表面の肌割れ症状は,経年劣化と乾湿・温令変化による脆弱化・繰り返し雨水による表面のセメント溶出によるものと推定される。(写真3)
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g)劣化損傷(表4参照)
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長文におつき合い頂きありがとうございました。

 さて次回は「建築保全」1991年7月号、special edition / 外装の補修・改修例「補修・改修の計画から保全まで」の後編「2.改修工法の選定」をご紹介します。

 さて、この年1991年の重大な出来事として(国内編)3月19日、JR東日本と京成電鉄が成田空港への乗り入れを開始しました。JR東日本は特急「成田エクスプレス」を新設し新宿・横浜から東京を経由して成田空港との間を結びました。そして6月20日には 東北・上越新幹線の両線が上野・東京間を開業し、東京乗り入れを果たしました。

それでは次回をお楽しみに!

打放しコンクリートについてもう少し詳しく知りたい方はこちらへどうぞ!
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by pikayoshi72 | 2008-11-10 07:28 | ブログ


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